2026.05.14

なぜ糸満でバインミーを?|コンズバーガー オーナーが語る、キッチンカーから西崎への道のり

コンズバーガーのオーナー、コンさんが店内のKon's Burger看板の前で笑顔で立っている。糸満市西崎のベトナムサンドイッチ専門店

糸満市・西崎の住宅街。交差点に面した小さな店の扉を開けると、薄暗い照明の中に香辛料の匂いが混ざっていた。コンズバーガー。トタン屋根を模した内装。裸電球がむき出しのまま灯る。一歩入ると別の国に紛れ込んだような感覚になる。

コンズバーガーのオーナー、コンさんはカウンターの向こうにいた。朝6時半。開店はまだ先だが、もうその時間から準備を始めている。挨拶をすると、少しはにかんだ笑顔が返ってきた。

那覇のメインストリートにはもう用がない。そう感じている旅行者にこそ知ってほしい、一人のベトナム人が沖縄の住宅街に根づかせた「毎日の味」の話を書く。

コンズバーガーのオーナー、コンさん。店内のKon's Burger看板の前で笑顔で立っている
コンズバーガー オーナーのコンさん

バインミーとの出会い

店内に掲示された『WHAT IS BANH MI』のイラストポスター。バゲット、バター、パクチー、ピクルス、ポーク、卵、きゅうり、レバーペーストの構成が図解されている
店内に掲示されたバインミーの構造を説明するポスター

ベトナムで育った「毎日の味」

コンさんにバインミーの思い出を聞くと、「思い出」という言葉自体がしっくりこない答えが返ってくる。

「バインミーって言うことは、日本語ではサンドイッチっていうことですね。朝ごはんで屋台に行って、学校に行く前に買って、仕事の前に食べる。普通のもの。普段の屋台で売ってるもの。」

特別な食べ物ではない。思い出ではない。ただ、そこにあった。毎日食べるわけではないが、週に3回は必ず口にしていた。100円ほどで買える。学生は学校に持っていき、会社員は通勤前に受け取って歩きながら食べる。包みやすいし、持ちやすい。だからみんな買う。それがバインミーだった。

コンさんは北部の出身だが、6歳から南部に移っている。ベトナムの中でも地域によって味は違う。北部は塩辛く、中部は唐辛子が多くて辛い。

「南部の方は、ちょっと甘み。日本に合う味です。」

そう言って少し笑う。漬物の酸っぱさと、ほのかな甘さ。その二つが合わさると「ちょうどいい」のだと、コンさんは何度か繰り返した。自分の故郷の味が日本人にも届くかもしれない——その感覚は、このときすでに芽生えていたのだと思う。

コンさんにとってのバインミーの原風景とは

6歳から家族の料理を作り、洗濯をし、豚の餌まで準備していたという。家計に余裕はなかった。外食が毎日できる状況ではない。母親が作ったごはんがある日はそれを食べ、ない日はインスタントラーメンを食べた。

その中にバインミーがあった。屋台で買う、安くて腹が満たされる食べ物。特別ではないからこそ、体に染みついている。コンさんが後に沖縄で店を開いたとき、「本場の味を出したい」と繰り返し口にする理由は、ここにある。思い出の味を再現したいのではない。自分の体が覚えている本場の味を、そのまま届けたいのだ。

なぜバインミーを看板メニューにしたのか

フォーもブンチャーも含め、ベトナム料理はたくさんある。なぜバインミーだったのか。

この問いに対するコンさんの答えは、驚くほど正直だった。

「起業する前に、貯金もそこまであるわけじゃなくて。すぐにオープンできるもの、という理由が一つ。」

材料費が安い。食器がいらない。持ち帰りは袋に入れるだけ。設備投資がほとんど必要ない。失敗してもやり直しがきくし、バインミーは英語の辞書にも載るほど世界的に知名度がある。ベトナム料理の代名詞であるフォーに次ぐ存在だ。

「だから起業しやすい。お金あんまりいらない。と、失敗してもまたやり直すことできます。」

経営判断として、極めて冷静だ。それでもコンさんの話を聞いていると、計算だけでは説明できないものがある。

「自分の味が一番いいとは言えないけど、でも全部自分で一つ一つ手作りして、その味をみんなに届けたい。」

週に3回食べてきた、南部の甘みと酸っぱさのバランス。それを、一から全部自分の手で作って出す。体が覚えている味だから、迷わない。

「絶対勝つと思わなかった。ただ、やりたいなと思って。自信あって、決めたらやる。」

言い方は淡々としている。だがその淡々とした言い切りの中に、迷いがない。この人は、決めたら本当にやる人だ。


沖縄へ——キッチンカーからの出発

なぜ沖縄だったのか

2016年7月。コンさんは会社員として千葉県にやってきた。5年間の契約だった。

千葉での暮らしの中で、人生を変える出会いがあった。200人が暮らすシェアハウス。いろんな国の人が集まって、料理を作ったりイベントを開いたりする場所。そこで奥さんと出会った。

「出会ってから、何回も話してて。あ、性格いいなって。」

付き合い、結婚を決め、千葉で書類を全部済ませた。5年間の契約が終わるタイミングで、二人は沖縄に向かった。

なぜ沖縄だったのか。理由は二つだとコンさんは言う。

「奥さんが沖縄の人だったのと、海が大好きだから。自然なところで暮らしたいなと思って。」

しかし、実際に沖縄で暮らし始めてから感じたものは、海の美しさだけではなかった。

「沖縄の方はもう心優しい。近所の人がたまに野菜を持ってきてくれたり、すれ違えば挨拶してくれたり。千葉に5年間住んだけど、こういう気持ちになったことがなかった。」

近所の人が食べ物をシェアする。すれ違えば声をかけ合う。ベトナムにもある風景だった。

「日本語を喋って暮らしているんですが、自分の国にいるみたいな感覚で過ごせるんです。」

コンさんにとって沖縄は、外国でありながら故郷に似た場所だった。

豊崎のキッチンカー時代——朝9時から売り切れまで

オレンジ色のキッチンカーの前に立つコンさんと奥さん。車体には『WHAT IS BANH MI』のポスターとメニュー、Kon's Burgerのロゴが見える
豊崎時代のキッチンカー。コンさんと奥さんの二人で始まった

沖縄に来たコンさんと奥さんが最初に始めたのは、キッチンカーでの営業だった。

キッチンカーを見つけたのは奥さんだった。コンさんはまだ千葉に契約期間が残っていたため、沖縄側の準備は奥さんとそのお父さんが引き受けた。古いトラックを二人で買いに行き、修理して、キッチンカーに仕立て上げた。

「奥さんがいろいろキッチンカーを探してくれて、一緒に修理もして。奥さんのお父さんも全部協力してくれました。」

開業資金を計算し、牽引カーとキッチンカーの二つの案を比較し、コストの少ないキッチンカーに決めた。二人で話し合い、二人で決めた。メニューもコンセプトも、すべて二人の間で固めてからトラックを探した。

営業を始めたのは、豊崎の「JA菜々色畑(道の駅とよさき)」。営業時間は朝9時から。閉店は日によって違う。早い日は午後1時に完売。遅い日は午後5時まで営業した。「だいたいは完売の日が多いです」とコンさんは言うが、その裏には相当な労力があった。

キッチンカーには仕込み場所がない。だから営業が終わると、アパートに戻って仕込みをする。夜7時か8時から、奥さんと二人で夜中の10時、11時まで。肉を漬け込み、野菜を切り、冷蔵庫に入れる。翌朝それをキッチンカーに積んで、また9時から営業する。

「仕込み場所がないので、それちょっと、あんまり便利じゃないなと。」

言葉は控えめだが、朝9時から夜11時まで、休みなく動き続ける日々だった。

開業当初、お客さんの反応はどうだった?

「バインミーって何?」

最初、お客さんの反応はそれだった。東京では流行り始めていたが、沖縄ではまだバインミーという言葉自体が知られていなかった。

コンさんはキッチンカーにランタンを飾った。ベトナムの屋台の雰囲気を再現する装飾だった。説明用の旗も作り「バインミーはこんな食べ物ですよ」と、一人ひとりに説明した。

最初の集客を支えたのは、奥さんのInstagramだった。友達が応援してくれて、口コミが口コミを呼んだ。「おいしいよ」という言葉が広がって、少しずつお客さんが増えていった。

しかし、コンさんの中には引っかかりがあった。パンだ。

地元のパン屋に依頼していたバインミーのパンは、ベトナムのそれとは違った。日本のパンは生地が詰まっている。ベトナムのバインミーは外はサクサク、中はふわっと。軽い。だから具材をたくさん挟める。

「100%ベトナムのバインミー出てないなと思ってて。」

キッチンカーでは、自分でパンを焼くことはできない。設備がない。スペースがない。でも、自分が本当に出したい味はこれじゃない——その引っかかりが、半年後、コンさんを店舗探しに向かわせることになる。


西崎に店舗を構えた日

コンズバーガー西崎店の外観。白いビルの1階に赤い文字でKON'S BURGERの看板。手前に紫の花が咲いている
糸満市西崎の住宅街に佇むコンズバーガー西崎店

糸満・西崎を選んだ理由

コンズバーガー店内の内装。ラタン製のランプシェード、木のカウンター、ベトナムの雑貨や本が並ぶ棚。ベトナムの屋台を思わせる手作りの空間
コンさんと奥さん、お父さんの3人で作り上げた店内

キッチンカーを始めて半年。コンさんの頭の中にはすでに店舗のことがあった。パンを自分で焼きたい。本場の味を出すには、キッチンカーでは限界がある。営業を続けながら、物件を探し始めた。

そして約1年後、コンさんは実店舗へ移ることになる。場所は糸満市・西崎。那覇でも豊見城でもなく、住宅街の中だった。

なぜここだったのか。この質問をすると、コンさんは少し笑って「いい質問ですね」と返した。

「基本的には自分たちは経営のことあんまり分からなくて。どんなところで売ったらいいかとか、考えなくて。それは多分、運命だと思う。」

運命、とコンさんは言う。奥さんがインターネットで物件を探し、奥さんのお父さんもあちこち見て回っていたが、なかなか決まらない。そんな中、二人が毎日通る道沿いに、募集の張り紙が出ていた。交差点に面した場所。前は弁当屋さんが入っていた物件だった。

「見て、『いい場所じゃん』と思って。『ちょっと聞いてみようか』って。」

ところが、人気物件だった。10組以上が待っていたという。大家さんが一組ずつ面接をしていた。しかも、前のテナントでトラブルがあったため、大家さんは「飲食店はダメ」と決めていた。

普通なら、ここで諦める。だがコンさんと奥さんは、提案書を作った。どんな店にしたいか。どんな雰囲気にしたいか。奥さんが絵を描き、コンさんが想いを伝えた。

「奥さんの提案を見てから、大家さんが『応援したい』と思ってくれて。」

飲食店はダメだと言っていた大家さんの気持ちを動かしたのは、二人の熱意だった。店舗の内装は、コンさんと奥さんとお父さんの3人で、何ヶ月もかけて手作りした。元は何もない白い空間。そこにベトナムの屋台の雰囲気を一から作り上げた。トタン屋根風の内装。裸電球のライト。壁にはベトナムの写真や紹介本。全部、3人の手でできている。

キッチンカーから変えたこと、変えなかったこと

店舗になって、一番大きく変わったのはパンだった。

それ以外にも、変わったことはある。仕込みが楽になった。キッチンカー時代はアパートに戻って夜中まで仕込んでいたが、店舗ならその場でできる。クーラーもある。広い。営業の合間に漬物を作ったり、野菜を切ったりできるようになった。夜中まで仕込みに追われていた時間を、新しいメニューの研究や味の改善に回せるようになった。

では、変わらなかったものは何か。

この質問には、コンさんは少し考えてから答えた。

店舗になると、ベトナムの紹介本を置けるようになった。壁に写真を飾れるようになった。お客さんがゆっくり食べられる空間ができた。「ベトナム行きたいんだけど、どこ行ったらいいですか」と聞かれたら、案内やアドバイスもする。

つまり、変わらなかったのは「ベトナムの雰囲気と味を知ってもらいたい」という気持ちそのものだった。キッチンカー時代にランタンを飾り、旗を作って説明していたあの姿勢は、店舗になっても同じだ。むしろ、空間が広がった分、もっと深くそれを伝えられるようになった。

自家製パンへの切り替え——「現地と同じ食感」への執着

焼きたてのバインミー用バゲットが焼き網の上にずらりと並んでいる。コンさんの手が見える
大阪で約1週間の研修を受け、自家製に切り替えたバインミーのパン

店舗化を決めた最大の理由が、パンだった。

「一番大事なのはベトナムの味、ベトナムのパンを守りたい。本場の味を出したいなら、日本人が作ったパンじゃなくて、自分で作ったパンで提供したい。」

コンさんは大阪で約1週間の研修を受けた。戻ってきてすぐ機械を買い、パンを焼き始めた。

何度も失敗した。何回もやり直した。それでも、今のパンはベトナムの本場と比べて「90%以上」の出来だとコンさんは言う。残りの10%は、焼き機の問題だった。ベトナムのパン焼き機は中でパンが回転して上下均一に焼けるが、コンさんの機械は回転しないため、途中で手動でひっくり返す必要がある。たまにパンの真ん中に白い部分が残ることがある。

「もうそろそろ新しい機械が来るんで。その時から多分改善できます。」

90%で満足しない。残りの10%のために、新しい機械を買う。その判断の速さに、この人のものづくりへの姿勢が出ている。


食材へのこだわり——コンズバーガーのバインミーが「あの味」になる理由

5時間かけて仕込むレバーペースト

バインミーの断面。パンの内側にレバーペーストが塗られ、にんじんと大根のなます、きゅうりが層になっている
パンの内側に塗られた自家製レバーペースト。ここに4〜5時間の仕込みが詰まっている

コンズバーガーのバインミーの味を決めているものは何か。コンさんに聞くと、迷わず「レバーペースト」と答える。「それが一番の店の特徴」だと。

工程を聞いた。長い。

まず、鶏レバーを買ってくる。何度も水で洗う。レバーの中の血管を全部取り除く。この時点で、かなりの時間がかかる。

次に、牛乳に浸す。30分から1時間。血抜き・臭み抜きのためだ。教わった通りに丁寧に下処理を進める。

牛乳から上げたら、また水で洗う。それから、お湯で茹でる。ただのお湯ではない。レモングラス、パクチーの根、玉ねぎ、塩を入れたお湯だ。15分茹でてから、また水洗い。ここまでが「掃除」の工程で、これだけで半日かかる。

「一番大事な工程はどこですか」と聞くと、コンさんは即答した。「掃除です」。

レバーの臭みをどこまで消せるかがすべてを決める。実は奥さんもレバーが苦手だという。コンさん自身も最初に作ったものは臭くて食べられなかった。そこから何度も試行錯誤し、教わった方法に自分なりの工夫を重ねていった。お湯にレモングラスを入れる。ネギを使う。パクチーを入れる。塩で茹でる。あくを丁寧に取る。「普通にお湯だけでいいんだけど」、それだけでは日本のレバーの臭みは取りきれなかった。

掃除が終わって、ようやく調理に入る。レバーを炒め、ひき肉を炒め、バター、チーズ、玉ねぎ、にんにくを加えて1時間炒める。そこに卵とパンの粉を入れて、3〜4時間煮込む。最後にミキサーで細かくして、オーブンで15分焼いて完成。

合計4〜5時間。これを、コンさんは一人でやっている。

「ベトナムのレバーペーストは油とか豚の皮を使うんですが、それは使いすぎるとあんまり良くないなと思って。だから日本では、ひき肉とバターとチーズに変えました。材料費は高くなるけど、いいものを作って提供したい。」

ベトナムから取り寄せるスパイスと調味料

バインミーに使うスパイスが青い皿に盛られている。八角、シナモンスティック、カルダモン、黒胡椒、唐辛子、チリフレーク
バインミーの味を支える5〜6種類のスパイス

バインミーに使うスパイスは5〜6種類。以前はベトナムから直接取り寄せていたこともあった。飛行機便なら1週間以内で届く。

しかし現在は、日本国内で調達している。理由は衛生管理の問題だった。個人輸入では、経営上の衛生チェックを通すのが難しい。「日本でも手に入る材料があるから、今は日本国内で買うようにしています。」

ただし、ベトナムの味を100%再現できているわけではない。コンさんはそこを正直に話す。

「大変ですよ。もっと考えたいけど、調味料がないと何もできないので。今まで作ったものは、ある材料の中で考えて、ちょっと改善するところもあります。100%じゃないです。」

100%ではない。でも、限られた材料の中で、毎日少しずつ近づけている。その姿勢は、パンの90%と同じだ。完璧ではないことを認めた上で、そこに向かい続けている。

練乳で肉を仕込む?ベトナムの調理法の秘密

スパイスと練乳で漬け込まれたチキンのアップ。レモングラスやにんにくが肉にまぶされている
練乳とレモングラスの根で下味をつけたチキン

コンズバーガーのバインミーには、もう一つ面白い特徴がある。肉の下味に練乳を使うのだ。

「練乳を入れると、肉が柔らかくなります。仕込みの時に調味料と一緒に入れて、肉に直接かけて混ぜるだけです。」

これはベトナムでは一般的な方法だとコンさんは言う。コンさんのオリジナルではない。ただ、日本ではほとんど知られていない技法だ。練乳のほかに、はちみつや砂糖で代用することもできるが、練乳を使う目的は甘みよりも肉を柔らかくすること。

もう一つ、コンさんが「日本では使ったことがない人が多いと思う」と言うのが、レモングラスの根だ。肉の下味にレモングラスの根を使う。これがコンズバーガーの味の特徴の一つになっている。

お客さんに一番言われて嬉しかった言葉

カウンター越しに作業するコンさん。黄色いキャップ、エプロン姿。窓から光が差し込んでいる

取材の終盤、コンさんに「これまでで一番嬉しかったお客さんの言葉は?」と聞いた。

「料理人としては、『美味しいですよ』って聞くことが嬉しい。でもそれよりも——」

コンさんが話し始めたのは、あるお客さんのエピソードだった。

そのお客さんはベトナムに旅行に行き、世界で一番有名だと言われるバインミー屋で食べてきた。帰国後、コンズバーガーに来てこう言った。

「『あの世界一有名な店で食べたけど、コンさんの方が美味しい』って。」

その瞬間が一番嬉しかった、とコンさんは言う。「1番か2番かは問題じゃないんですが」と付け加えながら、でもはっきりと「嬉しいです」と繰り返した。

バインミーを食べたくなったとき、コンズバーガーを思い出して来てくれる。それだけでも嬉しい。常連客の中には、週に2回、3回来る人もいる。ベトナムコーヒーとスペシャルバインミーを頼む人。薬膳ティーを頼む女性客。ジンジャーエールを頼む人。一人ひとりの好みを、コンさんは忙しい営業の中でも覚えている。

初めて来たお客さんが迷っていると、コンさんは逆に聞く。「さっぱりしたものがいいですか?がっつりお肉を食べたいですか?」。その答えによって、すすめるメニューを変える。

7時間の密着取材の中で見たのは、まさにこの姿だった。ワンオペで忙しい時間の合間に、一人ひとりのお客さんにメニューの説明をしている。具材の中身を丁寧に伝えている。営業の流れを止めずに、掃除もしている。机を拭く。ゴミを確認する。その合間に、またカウンター越しにお客さんと話す。持ち帰りの包み紙には、奥さんが一枚一枚手書きで商品名を書いている。

その丁寧さは「当たり前」ではない。

持ち帰り用の包み紙に手書きで商品名が書かれている。青いペンで『あんバター』の文字と、Kon's Burgerのイラスト
持ち帰りの包み紙には、奥さんが一枚一枚手書きで商品名を書いている

沖縄でバインミーを出し続ける意味

「ベトナムの子どもたちが学べる学校を作りたい」

取材の終盤、コンさんの話は店の外側に広がっていった。5年後の目標を聞いたときだ。

「5年後、40歳ぐらいなので、15店舗開けたいなと思って。フランチャイズみたいな感じで。沖縄だけではなくて、内地にも広げたい。」

15店舗。フランチャイズ。大きな数字だ。しかしコンさんにとって、店を増やすこと自体は最終目標ではない。

「広げる理由は、自分の人生の目標があるから。いろんな子どもたちを助けたい。ベトナムに学校を作りたい。それが最後にたどり着きたい場所です。」

コンさんは6歳から家事をしていて、家計に余裕はなかった。その環境の中で、周囲にはもっと厳しい状況の子どもたちがいた。

「ベトナムでは、親のいない子どもたちが道端で靴を磨いたり、宝くじを売り歩いたりしている。そういう子どもたちが結構いるんです。」

路上で靴を磨く子ども。宝くじを売り歩く子ども。親のいない子ども。それを自分の目で見てきたからこそ、何かしたいという気持ちがある。

「自分の力で社会貢献できることがあればいいなと思って。経営がうまくいくのを待ってから始めるんじゃなくて、今できることからやりたい。チャンスがあれば、自分の力を使いたいんです。」

成功してから始めるのではない。今できることから、すでに動こうとしている。子どもだけではない。高齢者のことも口にした。仕事ができなくなったおじいちゃん、おばあちゃん。国の問題もある。でも、力があるなら、できることは絶対にやりたい——コンさんの話を聞いていると、その言葉に嘘がないことが伝わってくる。

バインミーの店を広げることと、ベトナムの子どもたちに学校を作ること。一見つながらないように見える二つの目標が、コンさんの中では一本の線でつながっている。

沖縄とベトナム、食文化が交わる場所で

ゴーヤ、ナーベーラー、ヤギ。沖縄の食材の名前を挙げながら、コンさんは「だいたいベトナムにもあります」と言った。味つけも似ている。「ちょっと濃ゆくて」。さっぱりした和食とは違う、しっかりした味。その共通点が、コンさんにとっては居心地の良さにつながっている。

近所の人が食べ物を分け合う文化。美味しいものをみんなでシェアしたいという感覚。ベトナムにも沖縄にもある。「美味しいものをみんなシェアしたい」とコンさんが言うとき、その言葉はベトナムの記憶でもあり、沖縄での日常でもある。二つの土地の文化が、この人の中で自然に重なっている。

コンズバーガーという店は、そういう場所にある。ベトナムの屋台の雰囲気を再現した空間で、沖縄の住宅街に住む人たちが、ベトナムのバインミーを食べている。外国人観光客が来ることもある。ベトナムに旅行に行く予定の人が「どこに行ったらいいですか」と聞くこともある。コンさんはカウンター越しに、ベトナムの話をする。

食べ物を通じて、二つの文化が交わる。大げさな言い方かもしれないが、この店のカウンターではそれが静かに起きている。


コンズバーガーベトナムサンドイッチ西崎店|メニュー・アクセス・駐車場

オーナーが選ぶ、最初に食べてほしい3品

初めて来るお客さんに何を食べてほしいか。コンさんに聞くと、注文数が多い3品を挙げてくれた。

1. スペシャルバインミー(880円) 一番人気。ボリュームがある。がっつり食べたい人向け。男性客に特に人気がある。

2. グリルチキンバインミー(770円) 日本人に馴染みのある味。初めてバインミーを食べる人にもすすめやすい。

グリルチキンバインミー。パクチーとチリソースがかかったベトナムサンドイッチが、観葉植物を背景に白い皿に盛られている

3. 豚焼きバインミー(770円) チキンと並んで定番。コンさん自身も、お客さんの好みを聞いて「お肉好きなら」とすすめることが多い。

豚焼きバインミーの断面。香ばしく焼かれた豚肉、なます、きゅうり、パクチーの層が見える

ドリンクと合わせるなら、コンさんのおすすめはベトナムカフェオレ(セット価格400円)だ。ベトナムのコーヒーは日本のものより濃くて苦みが強い。そこに練乳を少し入れて飲む。「ベトナムでは、バインミーとコーヒーをセットで買って、食べながら飲む。それが習慣です」。

ベトナムカフェオレ。氷が入ったグラスに、練乳入りのコーヒーが注がれている。背景にベトナムの写真が立てかけられている
コンさんおすすめのベトナムカフェオレ(セット価格400円)

女性客には、コンさんが独自に味を研究して作った薬膳ティー(セット価格500円)が人気だという。甘さの調整も具材の配合もコンさんが自分で考えたもので、「女性にはこれ、間違いないです」と自信を見せた。

薬膳ティーをカップに注いでいるところ。黄金色のお茶にドライフルーツが浮かんでいる
コンさんが独自に味を研究して作った薬膳ティー(セット価格500円)

そのほか、パテたまごバインミー(600円)、ベトナムハムバインミー(770円)、豚焼肉のせサラダ麺(1,050円)、手作りジンジャーエール(セット価格350円)、りんごジュース(セット価格300円)、マンゴジュース(セット価格300円)もメニューに並ぶ。

※メニュー・価格は取材時点の情報です。最新のメニューはInstagram(@konsburger)をご確認ください。

メカルガーデンとの違いは?

コンズバーガーは西崎店のほかに、那覇市のメカルガーデン(MECAL GARDEN)でも出店している。ただし、西崎店とはメニュー・価格・支払い方法がすべて異なる。バインミーはグリルチキンと豚焼肉の2種類に絞り、各900円。日替わりランチ(1,250円)もある。支払い方法はクレジットカードとQRコード決済のみで、現金は使えない。営業時間は11:00〜14:00。来店前にInstagramで確認しておくと安心だ。

メカルガーデンでの出店には、明確な意図がある。コンさんは将来、那覇にも店を構えたいと考えている。しかし、いきなり出店するのではなく、まず那覇に近いエリアで実際に営業してみて、どんな客層が来るのか、どんなメニューが求められるのかを確かめたかった。つまりメカルガーデンは、那覇で本格的に出店する前のテストする場所だった。

「実際にやらないとわからないので。やってみたら反応がどんどん噂で広がって、みんな来てくれて、嬉しいです。」

キッチンカー時代も、予算を計算してから動いた。牽引カーとキッチンカーの二つの案を比較して、コストが低い方を選んだ。西崎の店舗でも、大家さんに提案書を作って出した。コンさんの経営判断には、一貫して「まず調べて、計算して、やってみる」という姿勢がある。勢いだけで動いているのではない。15店舗というフランチャイズの構想も、メカルガーデンでの手応えがあるからこそ語れる数字だ。

将来的には国際通りの近くにも出したいとコンさんは語る。メカルガーデンは、その最初の一歩だ。

営業時間・定休日・支払い方法

  • 営業時間:11:00〜売り切れまで
  • 定休日:月曜日・火曜日(火曜日は那覇市メカルガーデンに出店していることあり。不定休あり)
  • 支払い方法:現金・PayPay
  • 電話番号:070-3893-6789
  • Instagram:@konsburger

来店前にInstagramで営業状況を確認するのが確実です。

コンズバーガー西崎店のメニュー表。バインミーメニュー(スペシャル880円、パテたまご600円、グリルチキン770円、ベトナムハム770円)とドリンクメニュー(薬膳ティー、ベトナムカフェオレ、手作りジンジャーエールなど)
西崎店のメニュー表(取材時点)

コンズバーガー西崎店へのアクセスと駐車場

▼ 店舗の場所

交差点に面した場所にあり、車で通れば看板が目に入る。

専用駐車場あり。店舗から徒歩約2分の場所にあるアパート1階部分に、5〜6台分のスペースが用意されている。「kon’s burger ベトナムサンドイッチ 専用駐車場」の看板が目印。店舗から少し離れているので、先に駐車してから歩いて向かうのがスムーズだ。

▼ 専用駐車場の場所(店舗から徒歩約2分)

kon's burger ベトナムサンドイッチ 専用駐車場と書かれた看板。背景に黄色い線で区切られた駐車スペースが見える
店舗から徒歩約2分の専用駐車場。この看板が目印

筆者:teruya

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